『日本を革新する』 最終回 ~近年の変革

2000年からの変革の動き

90年代後半、米国では、ブロードバンドの浸透と共にeビジネスが急拡大し、様々なIT関連ベンチャーが台頭した。しかし長くは続かず、ITバブルは崩壊。エンロン、ワールドコムの巨額不正経理・不正取引に端を発した経営破綻は大きな社会問題にも発展し、SOX法(Sarbanes‐Oxley act  サーベンス オクスリー法)が施行された。この企業統制の動きでアメリカの製造業の体力はますます減衰し、金融資本主義へとシフト、いわゆるサブプライム金融バブルの時代へと突入した。

日本は平成小泉景気と言われる戦後最長の好景気を迎えたが、これは企業の業務改革やIT革命による結果とは言い難く、団塊世代の大量引退による人件費の抑制とBRICsの特需による効果が大きい。その平成景気に対して実感を得られない国民も多く存在した。政府が推進した構造改革は、ストラクチャ(構造=体制=組織)の見直しであり、業務プロセスにはさほど踏み込まなかった。郵政民営化も郵政業務を三事業に分割するという全体枠組みの改革のみで、お客様目線での業務革新までには到底至っていない。小泉政権後、短期間での総理大臣のチェンジが続いたが、政治も経済も実態は何の大きなチェンジを起こさないまま、更に安心・安全への過度の追求と内部統制が一層強化され、日本版SOX法(J-SOX法)が施行された。このコンプライアンス強化の呪縛が国民全体の閉塞感を更に増幅させていった。

 

IT化を邁進させた韓国

韓国は21世紀以降、これまでの日本模倣からの脱却を基本とした。韓国品質でのデジタル化は、世界に十分に通用するとの確信から一気に世界市場に打って出た。世界から優秀な人材を集め、彼らに本来の実力を100%出してもらうために、エンパワーメント(権限付与)と仕事面・生活面の両方をバックアップする十分な環境を与えた。中でもより秀でたパフォーマンスを出した人材には、韓国人と同様の評価指標で評価し、高報酬で報いた。登用された人材は、更にやりがいのある仕事と高報酬を求め、職務を着実に実行に移していく。躍進する韓国企業の成長スパイラルモデルはこうして完成したのである。

もちろん、韓国でも内部統制強化の動きはあり、民間だけでなく政府も世界市場を狙って情報開示を急いだ。韓国企業の場合、韓国版SOX法(K-SOX法)への対応はその殆どがシステムツールを巧みに利用して、効率的に部署間の平準化を図りながら進めた。これに対し日本は、ツールの導入は文書化作業で一部行われたが、運用評価ベースでのIT活用は殆どなく、人海戦術で作業を進めた。その後、金融庁が法規制をやや緩めたこともあり、J-SOX法については大きくは語られなくなってしまった。日本ではプロセスの十分な議論がないままスタートさせてしまったために、J-SOXの当初の目的も果たせないまま、結局、日本企業の株価は金融庁の目論みとは逆に低迷したままである。

 

リーマンショック以降の世界

2008年9月、リーマンショックが起こり、世界規模で大不況の嵐が襲った。直後には、日本では政府もメディアも『日本の実体経済は強いので、大きな影響はない』との評論をしていたが、数ヵ月後には日本が最もシリアスな状況に落ち込んだ。米国は、チェンジを標榜したオバマが大統領になり、日本でも実に55年ぶりに政権交代が実現した。しかし大きなチェンジの成果を見せられないまま、国民の支持率は低下気味である。やはり、経済の不安定が最大要因であろう。

今、世界はまた、新たなパラダイムシフトの最中にあるのではないだろうか。日本はこの失われた20年で、先人達が成し遂げた経済大国第2位という自信とその成功体験が甘えの構造を作り、過去を維持するだけの無知・無学・無策を生み、グローバルの動向に無頓着になり、世界から最も存在感のない国の一つに挙げられるようになってしまった。いままで行ってきた愚を引きずっていたら、間違いなく「失われた30年」になってしまうだろう。向こう10年を「希望にあふれた10年」として甦えさせるには、今こそ日本が失いかけている日本人のDNA-Will(志)とWisdom(知)-を再度自覚し、行動を起こすべきだ。この『志』と『知』こそ、日本が明治時代に短期間で列強と肩を並べ、また、第二次大戦後の奇跡的な復興を成し遂げた源泉なのだ。

 

自ら志を高く持って

現代の起業家の中に、国家の将来図まで描いてビジネスを立ち上げる人が果たしているだろうか。目前の資金繰りや営業開拓に追われ、国家の将来など思いをはせる余裕など全くないのが現実だ。

かつて、高い志を持ってチャレンジする日本人の周りには、場所や資金を提供したりチャンスを与えてくれた理解者の存在があった。それらの支援者は目先のリターンではなく、将来の大きな利益を読むWisdomを持っていた。

今、この国ではベンチャーを育てる仕組みが何と貧相なことか。政府は、中小企業支援を唱えてはいるが口先だけで、多くの中小企業、ベンチャー企業の苦労の実態は知られていない。環境や制度を整えることは喫緊の課題である。

自ら志を高く持って、発言・行動することが大切だ。しっかりとした信念を持ち、その志を実現するために十分な知を身につけ、実際の現場でそれを実行すれば、そこから新たな知を吸収できる。

成功からも失敗からも大きなWisdomを習得できる。それを仲間と共有すればさらに大きなWisdomとなり、やがてそれが自信となり新たな挑戦が生まれる。このようなプラスのスパイラルが出来上がれば、日本は衰退化から脱出し再び活性化の旅路に乗ることができるに違いない。

志を高くして古い思考習慣から一歩抜け出せば、新しい光明を見出せることだろう。

カテゴリ:コラム 更新:2010年11月30日

『日本を革新する』 第8回 ~韓国の躍進と日本

韓国躍進の秘密

90年代前半まで、韓国は日本型ビジネスモデルの模倣を行っていたが、モノ作りにおいては日本の方が圧倒的に上を行った。1997年のアジア通貨危機の際、IMFの支援で何とか持ちこたえた韓国はこれまでの日本追随策に疑問を感じ始めた。そこで参考にしたのが、欧米でもちあがっていた“New Economy”議論である。経済全般が非常に大きなインパクトをもって一変するという時代のパラダイムシフトの意味から、ニューエコノミーと呼ばれた。

ニューエコノミー論には4つのメインテーマがあった。

1つ目は、グローバル化の波である。1989年のベルリンの壁崩壊後、欧州共同体は参加国を増やし欧州連合としてますます拡大、BRICsの台頭など、かつての主要7カ国主体から、ビジネスを捉える上でもグローバルを意識しなくてはならなくなった。日本同様に資源が少なく自給自足率の低い韓国は、グローバル化への道を加速させていった。

2つ目は、技術のさらなる進展である。アナログからデジタルへの変化は、あらゆる分野に大変革をもたらすという予測である。かつては大きな技術格差のあった韓国は、デジタル技術であっという間に日本と肩を並べるまでになった。

3つ目は、優秀人材の争奪戦、すなわち“War for Talent”の激化である。グローバルにビジネス競争が激しくなると、そこで通用する人材の確保は成功するための大きな課題である。韓国は日本以上に、優秀人材の確保と人の育成に目を向け始めた。

4つ目は、目に見えない資産、いわゆるIntangible資産の重視である。インタンジブルとは、有形資産や金融資産よりも、顧客や従業員・取引先に加え組織内のビジョン、リーダーシップ、業務プロセス、ナレッジといった無形資産の価値の方が、企業価値としてより重要とする考えである。韓国では、日本の経済産業省に相当する省庁を『知識経済部』と呼び、多くの組織でCKO(Chief knowledge officer = 知財担当役員)が存在する。

日本では、このニューエコノミー論は金融ビッグバンやミレニアム問題を間近に、ほんの一瞬取り上げられただけで、その大きなパラダイムシフトについて真剣な議論には進まなかった。まして、企業の中で、ビジネス環境の変化にどのように取り組むべきかの議論もほとんどされずに、21世紀を迎えた。一方の韓国は、1997年の金融危機をきっかけに、この時代変化を素直に受け止め、日本模倣をやめ、本格的な韓国版BPRを進めることになった。

 

内向き志向を強めた日本

21世紀に入っても、日本はリストラと改善中心の取り組みを継続した。 そこへ、粉飾決算、情報漏洩、データ改ざん等の不祥事が相次ぎ、コンプライアンス(法令順守)の機運が急速に高まった。監査法人やその系統のコンサルティング会社がこれに一斉に飛びつき、ITベンダーもセキュリティソフトの売り込みに邁進した。ガバナンスや、CSR(Corporate Social Responsibility)が叫ばれ出したのもこの頃である。

 外需依存の輸出企業が産業構造をリードするのとは裏腹に、日本全般に内向き指向が強まっていく。国民全体が、極端なほどに安心・安定を一段と志向するようになった。そこへ個人情報保護法がこれに拍車をかけた。法律の上では、5,001件以上の個人情報を扱う事業者が「個人情報取扱事業者」になると規定されているが、小さな会合の名簿ですら住所や電話番号等の情報は紙面から排除され、単純に名前だけの羅列だけになった。もともと他人に対して自分からの積極的なコミュニケーションを苦手とする日本人同士の交わりがますます希薄になり、情報やナレッジの共有化の動きまでを阻害するようになった。

勿論、個人情報の保護は大事で、悪用などが絶対にあってはならず、こうした行為に対しては厳罰に処して然るべきである。しかし、『個人情報保護の対象』として何もかもをきつく縛り過ぎた果てに、『三人寄れば文殊の知恵』に一番必要な、未知の人と寄り合う機会をことごとく奪う環境が日本にでき上がってしまった。さらに、情報共有化を悪とするような意識が広まったために、完全にオープンイノベーションの芽をつんでしまった。

カテゴリ:コラム 更新:2010年11月22日

『日本を革新する』 第7回 ~真の業務プロセス改革-③

パッケージシステム化の呪縛

日本ではBPRがいつの間にかリストラにとってかわり、改善との並走が長きに渡って定着した。その際の主たるテーマはコスト削減と、効率性(生産性)向上であった。アメリカでBPRの延長線上に登場したSCM(サプライチェーン)、CRM(カスタマーリレーション)、KM(ナレッジマネジメント)等は日本のコンサルティング会社にとっても格好のビジネスのネタとなり、システム化の波が日本にも押し寄せた。90年代後半になるとドイツ生まれのSAPというERP( Enterprise Resource Planning )パッケージソフトが、業務ごとに「あるべき」プロセスを設計してパッケージを導入すれば、簡単にBPRが実行できるという謳い文句で、本格的に日本にも導入されはじめた。横並び体質の日本企業は一斉にこれに飛びついた。

日本企業のトップ経営者は極めてITに弱く、SI部門或いはその背後で虎視眈々とシステム箱の売り込みを狙うITベンダーに「おまかせ」になっている傾向がある。ドイツ式ビジネスプロセスは日本の複雑な業務に合わせてカスタマイズが必要なので、馬鹿にならないほどのコストがかかる。ここにコンサルティング会社も目につけ、細かな手順・手続きの議論を長々と進めて時間稼ぎを行い、それは当然ながら報酬アップにつながった。

ERPが出始めたばかりの頃は、投資費用がかかり過ぎたため、SCM、CRMは単発での導入が多かった。だが次第に、ERPのコストが下がり始めると、ERP全盛の時代を迎えることになる。

日本企業のIT化はそれなりに進んだが、問題は、IT化の前に業務プロセスの議論を徹底的にしたかどうかであり、殆どの企業はこれをやらずにIT化だけを先行してしまったのである。

本来のBPRを成功させるためには、まずはお客様やステークホルダー全てのために、業務プロセスはいかにあるべきか、これまでのやり方を今後も継続するのか、プロセスの価値を高めるためには何をしなければならないか、そのために必要なデータや情報、知恵は何なのかといった、業務プロセスの議論を徹底的にするべきである。その中で費用対効果を検討しつつ、IT化によってのみ効果が実現できるものを徹底的にIT化していくべきである。必ずしもIT化を必要としないBPRがあることを認識すべきである。

ERPパッケージ導入の場面で、『業務プロセスは現状のままでいいので、とりあえず入れて!』とはよく聞かれる話である。顧客や従業員の満足度向上という目的を見失い、SI部門のパッケージ導入自体が目的化してしまう。導入後はシステム本来の能力や機能の殆どが活用されないまま、使えない高い箱を買ったといわれてしまい、ツールに人が使われてしまっているという現場の不満や、投資対効果が見えず途方に暮れる経営者の声も頻繁に聞かれる。

このように日本は真の業務プロセス改革なくして、リストラと改善と部分システム化を、それぞれ統合もせずにバラバラに進めてしまったので、経済は立ち直るどころか、横並びで負のスパイラルに傾れ込んでいった。とりわけ金融業界の古い体質は自力では立ち直れずに90年代後半、遂に金融ビッグバンが襲うことになった。米国ではBPRの次にレベニューエンハンスメントが唱えられた。その頃、日本では管理強化の流れがメインストリームとなる。そこから、EVA経営やらBSC( Balanced Score Card )等が、コンサルティング会社、とりわけ海外の監査法人系コンサルティング会社のメインサービスラインとして浮上する。アメリカ的なガバナンスやコンプライアンス等が叫び始められたのもこの頃からである。

 

日本一のトップ企業

バブル以降の90年代、日本企業は80年代の勢いを失ったまま精彩を欠き低迷してしまうのだが、例外的に大成功を収めている日本企業があった。トヨタである。独自の生産方式でコスト削減に努め、コストの割に高性能なトヨタ車は瞬く間に米国消費者にも強く支持され、着実にマーケットシェアを伸ばしていった。

このトヨタやキヤノンが日本を代表するトップ企業として君臨すると、マスコミのトーンもコストカットに努力した企業こそが成功者という「右へならえ」の風潮となり、各企業にとってベストな業務プロセスを議論することは無く「リストラ」と「コスト削減」の道を驀進していった。

カテゴリ:コラム 更新:2010年11月16日
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